tamagome logs

たまごにことだま、こめてめばえる。

書き捨て

KKST-0030

〇本棚に無造作に積んであったニッセンの二〇一三年夏カタログでファッションを決めて、ワンカット書きます。 ・アディダスサウナスーツ、ブラック×ピンク(九千九百九十円)・ピンク色のダンベル(詳細不明) 〇おしあがり 熱帯夜明けのしなびた中通り、つ…

KKST-0029

霞雲の奥から、歪んだ月の姿がおぼろげに透けて見えた。空は赤みがかった灰色に街の光りを照り返し、道筋は、夜闇が飲みこもうとするのをぴしゃりと拒んで、不思議に青く沈んでいた。 新しくまぶされた粉雪が、純潔のベールのように見えた。足下から橋の先ま…

KKST-0028

五歳の冬のある荒れた日のことを、グレインは今も時に鮮烈に思い出すことがあった。 その日、村へ続くなだからな白い丘には猛烈な風が叩きつけ、ごおごおと唸りながら、彼と母の暮らす小屋の板塞ぎの窓や、石壁の角を甲高く掻いて震わせた。彼は、粉雪が吹き…

KKST-0027

(一) そこはかとなくイケた顔を映しに水面(みなも)をのぞくと、サメの巨頭が噴き出した。ので俺は悲鳴をぶちまけ卒倒した。 「さっさっ、サメーッ!!」 黄ばんだ牙をむき出した顎が欄干を折り割り、俺の足先三寸にかぶりついた。四肢から脳へと八つ裂きの…

KKST-0026

〇次のキーワードを用いて、八百字以内で物語のあらすじを書きます。 (ショッピングセンター・西暦六〇九年・戦争・田舎町) ※キーワードは、Wikipediaの「おまかせ表示」機能を利用して、出来るだけランダムに選びました。 〇おしあがり(八百字) 田舎町…

KKST-0025

「さあさ皆様お待ちかね、鶏肋屋(けいろくや)恒例、持ってけ市の時間だよ! 五百円持ってこぞってこぞって、五千円から五万円まで、とっておきの商品の、文字通りの投げ売りだあ! 早いもの掴んだもの勝ちの持ってけ市だよ! こぞってこぞってぇ!」 どや…

KKST-0024

「そこでダニーが、たこ焼きを空中散布したわけー」 「超クール」 ジェイとアンディはげらげら笑い合った。 「しかもそれ、レーザー出すの。もう避けんの大変」 ジェイは真っ赤なフロアソファから立ちあがり、投げだされた新聞紙やDVDを蹴散らしながら、…

KKST-0023

周りの四人で机を寄せて、「木天蓼(またたび)商店街活性化のアイデア」を十分でまとめるよう、講師から指示があった。ぼくはめんどくさかったので、もっぱら書記役につとめるべく、すぐメモ紙を目の前に出して、それとなく、まとめ役くさい台詞を放った。 …

KKST-0022

〇頼んでもいないのに届いたメンズニッセンの二〇一三年夏カタログでファッションを決めて、ワンカット書きます。 ・10ポケッツテーラードジャケット、濃紺(五千九百九十円)・タブルガーゼ長袖シャツ、紺ストライプ(千九百九十円)・イタリアンレザーベル…

KKST-0021

しびれをきらしたのか、ローテーブル越しに、少し年上の営業マンがビジネス的な上目遣いで決断を促してくる。同じ接客ソファに並んで座る由佳里(ゆかり)も、それを迫るような――厳密には、『わたしの意見で』という――視線を陽太郎(ようたろう)の顔面に向…

KKST-0020

天使の羽まである黒髪を鏡越しにゴムで束ねながら、ハツヱは朝のまどろみの中で感じた、さざ波のような快さの正体を、自分の素知らぬ顔の奥にただした。 幻想の始まりには、ヒイラギの広くてすらりとした体躯があった。 見上げるハツヱに彼は、ほほえみかけ…

KKST-0019

浴槽に胸まで浸かったまま、バスピローに頭を預けて、文庫本を十ページほどゆっくり読み進めたところだった。 ユニットバスの中折れとびらが何の前触れもなく一度に開いて、真っ黒に塗り潰された、人型の『かたまり』が、一気に中へ乗り込んできた。 理屈じ…

KKST-0018

高校の部活を終えて自宅へ帰ったタケルは、玄関ドアに寄りかかった赤い小さな寝袋の中で、見知らぬ年少の娘が、どっぷり眠りこくっているのに出くわした。 動転して息をのんだ彼が、忍び足で近寄りながら凝視するのをよそに、少女は、九歳か十歳くらいと思し…

KKST-0017

(一) 月面九条通(くじょうどおり)を甲と乙が、簡易宇宙服でタンブラー片手に並んで歩いていた。甲、軽やかに、「なんか右腕がうずくから/殴るね」と切り出す。乙、笑顔のまま訊き返す。 「え?」 (二) 間髪なく、一歩引いて軽く屈んだ甲が、乙の腹部…

KKST-0016

〇次のキーワードを用いて、八百字以内で物語のあらすじを書きます。 (建設コンサルタント・デジタル生命体・市警察・農業組合) ※キーワードは、Wikipediaの「おまかせ表示」機能を利用して、出来るだけランダムに選びました。 〇おしあがり(八百字) 建…

KKST-0015

悪友どもと賭けポーカーに興じて笑い転げていたところに、まるごと、張り倒すような怒声が響いた。 「何してるの!」 熱帯夜のテラスが、水を打ったように静まりかえる。 振り返ると、血相を変えた母が、寝間着姿のまま奥の扉からこちらへ身を乗り出していた…

KKST-0014

クミニシフェルト墓地のコテージをひと月借りたぼくは、五月から六月にかけてをそこで、やまいを癒やすためにひとり、静かに過ごした。平屋の小さな建物にはひと坪くらいのウッドデッキが組まれており、日中はもっぱらそこで読みものや書きものを、あるいは…

KKST-0013

白いカウンターテーブルの上、グラスの束から一本、セロリの茎を取り出して小皿のマヨネーズにつけると、日暮(ひぐらし)はそれを深めにかじって、面倒くさそうに頬張りながら、「あ、」 と声を上げた。「新しいギャグを思いついた」 「あ?」隣に座ってい…

KKST-0012

〇無印良品の二〇一三年春夏コーディネート集でファッションを決めて、ワンカット書きます。 ・オーガニックコットンUVカット太ボーダーポロワンピース(三千九百八十円)・コットンサイドファスナーリュック(二千九百八十円)・コーデュロイリボンバレエ…

KKST-0011

新聞を読み終わってソファの脇に畳むと、足下でだらんと寝伏せていた黒いレトリバーがちらり、こちらを伺ってきた。何も言わずに額を撫でたら、その手に鼻をつけて二、三尻尾を振ったものの、それきり、またぺたんと顎を床に置いて、ぼんやりした世界へ沈ん…

KKST-0010

〇次のキーワードを用いて、八百字以内で物語のあらすじを書きます。 (音楽CD・風力発電・時代劇・魚) ※キーワードは、Wikipediaの「おまかせ表示」機能を利用して、出来るだけランダムに選びました。 〇おしあがり(八百字) 洋上での風力発電が盛んな…

KKST-0009

日の入り後の薄暗い部屋で、テレビがタレントの開運旅もの番組を垂れ流すのを背に、僕はパソコンで名の知れない同人作家の少女漫画をダウンロードしようとしていた。 しゅうしゅうとディスプレイの背後で、円筒型の加湿器が湯気をあげている最中から、 「あ…

KKST-0008

毎日一通、わたし宛に差出人のない絵手紙が届く。素朴な写真やイラストに、わたしをいたわるうつくしい手書きの言葉を添えて。もう一年以上も、ずっと。 差出人は、文面からして、わたしを詳しく知らないようで、愛しているわけでも、会いたいわけでもないよ…

KKST-0007

この日会議室で開かれた、販売促進課の全体ミーティングは、新型便秘薬の商品戦略がおもな議題だった。 「それでは、担当の平澤(ひらさわ)くんから、詳しくお話しします」 女性係長がコの字に並ぶ一同に一声かけたのち、目で合図すると、若い平社員が立ち…

KKST-0006

〇【明けましておめでとうございます】×【開けましておめでとうございます】 〇 「あけまして!」 サラサは威勢良く言って、暗闇の中、手に持っていたコードを引っ張った。 手前の裸電球がまぶしく点灯し、でたらめにくるくる絡み合った針金へ貼り付けた、赤…

KKST-0005

「ちょおっと、待ってもらって良いですか?」「ん」 生徒会長、少し首を捻ったものの、「良いよ。どうぞ」と渋々応じてくれたので、おれは東埜(ひがしの)の背中を叩いて、「ちょっと外して、ミーティングしよう」と、立ち上がった。「はえ、」 四分の一ほ…

KKST-0004

〇MUJI Laboの二〇一二年秋冬コーディネート集でファッションを決めて、ワンカット書きます。 ・オーガニックコットンツイル裏フラノフーデッドブルゾン・カーキ(七千五百円)・ウールカシミヤ入りタートルネックセーター・ネイビー(四千八百八十六円)・…

KKST-0003

東芝製の古い黄緑色の冷蔵庫から、スーパーで買った茨城県産の和梨を出してきた。四個入り百九十八円のセール品だった。 少し扁平で、表面の黄金色の皮にびっしりと薄色の斑点がついている。手のひらで軽く持て余す程度の大きさ、中が充ちているのに相応しい…

KKST-0002

がしゃあん、 と、大仰に割れものの割れた音がした。 * 「貴様らか!」 顔すっかり火照らせ、あちこち血管を浮かせながら、干物じみた容貌の老人が、歯の無い口で、不明瞭にわめいた。 「貴様らか、俺の、柿右衛門(かきえもん)の花瓶を割ったのは!」 老…

KKST-0001

入社して間もないひるめし時のこと、 「僕の家、超汚いんすよ」 と雑談の流れでこぼしたら、課の先輩の恭子(きょうこ)さんが、 「何なら、あたしがかたしてやろうか?」 と乗ってきたので、そこそこわくわくしながらお言葉に甘えることにした。何でも、生…