tamagome logs

たまごにことだま、こめてめばえる。

KKST-0008

 毎日一通、わたし宛に差出人のない絵手紙が届く。素朴な写真やイラストに、わたしをいたわるうつくしい手書きの言葉を添えて。もう一年以上も、ずっと。

 差出人は、文面からして、わたしを詳しく知らないようで、愛しているわけでも、会いたいわけでもないようだったが、気味が悪いのには違いない。警察に少し相談はしたが、わたしに何の心当たりもなく、いっこうにエスカレートしない以上、正体を突きとめて対処するのは難しいといわれた。郵便屋さんの方も、不気味だからといって届けないというわけにはいかないらしい。

 わたしはすっかり諦めて、とにかく寄せられる絵手紙を、一ヶ月毎に燃えるゴミと一緒に出して捨てている。いつまでこれが続くのかと思うと気が遠くなるが、不思議なことの一つ二つ、世の中にはあるものだと思って、大体慣れた。

 今日も仕事を終えてアパートへ帰り、ドアの新聞受けを開けると一枚、ちゃんと絵手紙が落ちてきた。裏にはこうある。

『寒波止まず身も心も芯まで冷え入る折ですが、どうぞお身体ご自愛くださいませ。このてがみをよんだひとは、三十ねんいじょうに同じてがみをださないと、ふこうになります。』

 とりあえず脱ぎかけのコートのポケットにそれをしまって、わたしは夕飯のことを考えながら、部屋の奥の灯油ストーブの火を点けた。

 

(※この文章の内容は、フィクションです。趣旨については「はじめに」をご覧ください。)

 仮題:趣旨の誤解
 分類:謎解け
 作成開始日:二〇一三年一月十四日
 作成終了日:二〇一三年一月十四日
 制作時間:一時間弱
 文字数:五百五十四