tamagome logs

たまごにことだま、こめてめばえる。

KKST-0022

 〇頼んでもいないのに届いたメンズニッセンの二〇一三年夏カタログでファッションを決めて、ワンカット書きます。

・10ポケッツテーラードジャケット、濃紺(五千九百九十円)
・タブルガーゼ長袖シャツ、紺ストライプ(千九百九十円)
・イタリアンレザーベルト、黒(二千四百九十円)
・ツータックドレスチノパンツ、ライトベージュ(他色との三本組、五千九百九十円)
・ビッグフェイスウォッチ、白(千九百九十円)

 

〇おしあがり

 朝にまどろむ砂浜を、いつものように犬と並んで歩いていたとき、まだ色味の残った日光がぎらぎらと照り返すプラチナの海、その渚より数十メートル入ったところに、小さく人影があるのに気づいた。

 進むでも、戻るでもなく、ぽつりとひとり、立ったまま、きらめくさざ波の息づかいにあわせ、軽く揺れている。

 犬が嫌がるのを引きずるように、たわむれにぱちゃぱちゃ波が打ち寄せるそばを小走りして近寄ると、うす暗やみの中にいでたちが浮かび上がってきた。中肉中背に短髪の中年男性で、襟付きシャツに黒系のジャケット、下は淡色の長ズボン姿。とても海に入るのに相応しいとは思われなかった。

 男性は、左手首に巻いた銀色の腕時計を目下に持ってきて、ただじっと、おだやかな顔をして文字盤を見つめている。

 丁度真後ろに回り込んだので、何か、声をかけようとしたら、向こうもこちらの気配に気づいたらしく、上半身だけおもむろに振り返ると、軽く手を挙げて笑った。

「どうしました?」

 そう口にした彼のはるか頭上から、細く真っ白な綱が、音もなくそっと垂れてきた。彼は待ちかねたように喜色を浮かべ、その末端の大きなフックを、ジャケットの裾をめくって出した革のベルトへ引っかけた。

 

(※この文章の内容は、フィクションです。趣旨については「はじめに」をご覧ください。)

 仮題:MNISN 2013S 46T
 分類:カット
 作成開始日:二〇一三年四月二十一日
 作成終了日:二〇一三年四月二十一日
 制作時間:一時間半くらい
 文字数:七百二十五