tamagome logs

たまごにことだま、こめてめばえる。

KKST-0005

「ちょおっと、待ってもらって良いですか?」
「ん」

 生徒会長、少し首を捻ったものの、「良いよ。どうぞ」と渋々応じてくれたので、おれは東埜(ひがしの)の背中を叩いて、
「ちょっと外して、ミーティングしよう」と、立ち上がった。
「はえ、」

 四分の一ほど疑問形を混ぜて返事した彼女を待たず、生徒会役員らに軽く会釈をして、おれは廊下へ出た。

 すいませんすいませんと無駄に頭を下げたあと一度戸に肩を引っかけて、ようやく東埜が追いつく。

「――あのさ、東埜。今どういう場面か、分かってる?」
「もちろんです」彼女は胸を張って、「装甲人機(そうこうじんき)を、家庭科室に置いてもらえるように……」
「そうだよな、交渉してるんだよな?」

 おれは額を手で押さえながら、極力語調を柔らかにして、彼女を諭しにかかった。

「相手の側になって考えてみろよ」
「ええ」
「でっかい兵器を校舎の中に置きますよ、と」
「そうですね」
「ただ言われて、『はい良いですよ』って許可できると思うか?」
「ああ! 確かに、生徒会にそんな権限、無いですよね!」東埜は余計な納得をして、「まず教頭先生あたりに言質(げち)取りしろってことですよね? かしこい!」
「それ以前の問題です。それ以前の問題」爛々とした彼女の目線を軽く払って、「でっかい兵器は基本的に、学校には置けないと思うの。危ないから。だから誰も許可できないと思うの」
「装甲人機でたこ焼き、焼けないってことですか?」
「普通、そうなるよね」即座に反論しそうな顔の彼女に、矢継ぎ早に続けた。「そうなっちゃうから、あれを学校に入れたいんだったら、あれが兵器だっていうことは言っちゃ駄目だろ。思わない?」
「じゃあ、滑腔砲(かっこうほう)とか、機雷ポッドとか、武装のことどうやって説明するんですか?」
「あれは、飾りだ」
「嘘つくんですか」
「嘘じゃないよ。実際、文化祭で戦闘があるわけじゃないだろ? 使わないんだから、あれは飾りと言って間違いないじゃん」
「それは屁理屈です」
「だから。だからね? 交渉ごとって言うのはそういう話し方をするんだって言いたいの、おれは」
 口への字の東埜をいよいよ黙らせるべく、話をまとめにかかる。「都合悪いことを正直に駄々流しで喋っても、はいはい進まないから、ウケ良いほうに、話を整えて持ってって、相手に断りにくくするのが交渉だ。……それができないんなら、火炎放射器で焼き物して客を呼ぶなんざ、もう論外だな」

 東埜はしばらく伏し目で呻ったのち、気持ちを切り替えたように一つ頷いた。

「分かりました。……さっきの話は一般的な性能で、今ついているのは飾りだってことにします」
「よし」さすが軍人。分かりが良い。「そういう風にフォローするしかないと思うよ」
「たこ焼きもやめます。ケーキの出店(でみせ)にします」
「は?」
「火炎放射器も飾りなのです。だから使いません」
「あの、……」全然分かり良く無かった。「じゃあ、装甲人機は、家庭科室で何するの?」
「マスコットです!」
「自分で言ってて苦しいと思わない?」
「苦しいです!」

 

(※この文章の内容は、フィクションです。趣旨については「はじめに」をご覧ください。)

 仮題:二人で(千字程度)
 分類:掛合い
 作成開始日:二〇一三年一月三日
 作成終了日:二〇一三年一月三日
 制作時間:一時間半くらい
 文字数:千二百九十四