僕について(2014.2)
- 【創作】感性を刺激したいと思って、最近やっていない、あるいは今まで一度もやっていないが「ちょっとやってみたい」と思う文化的活動をすることにした。実際、まばらに、している。
一ヶ月強の成果としては、映画を観たり、tnr-iの操作を勉強したり、iPadでひたすら○を描いたり、巨大装置の写真集(記事末尾参照)を買うなど。興味が小さく分散しているし、「まばら」なので、果たしてこんな調子で自分のためになるのかとても疑問だが、執筆に行き詰まって悶々しているよりは健康的か。
書き捨てを再開したが、すぐにペースが止まってしまった。短編小説の構想はまだ頭の中で育て中。 - 【体調】若干持ち直した。ただおつむの調子が悪く、集中力や記憶力にしばしば抜けが出るのが不満。
買ったは良いが、まだ流し読みしかしてない。
KKST-0029
霞雲の奥から、歪んだ月の姿がおぼろげに透けて見えた。空は赤みがかった灰色に街の光りを照り返し、道筋は、夜闇が飲みこもうとするのをぴしゃりと拒んで、不思議に青く沈んでいた。
新しくまぶされた粉雪が、純潔のベールのように見えた。足下から橋の先まで、それをひと筋の靴跡とけものの足跡だけが侵していた。追うように、歩みを進める。
雪にただ埋もれた無人の河川敷に挟まれて、色を剝かれたような黒のうねりが、橋の真下へざばざば流れ込んでいく。手すりから少し、覗き込んでも、何の濃淡や輝きもない。強く、冷たい力が引きずり込むような感覚がして、思わず顔をそむける。
車がヘッドライトを焚いて後へ前へまばらに行き交い、目に映るものを明と暗に、一瞬、さばいて消えた。
風はほとんど吹かない。頬が凍り付く匂いもない。人の気配は、イヤフォンから流れるバラードの中にしかない。
橋の終わりから少し行って、脇の細い路地に逸れる。
低い新築のマンションと、執念じみた塀に覆われた古い平屋の狭間を抜けると、家並みの中で、一本の街灯が、小さな公園を聖域のように銀白に浮かばせていた。
鎖と座面のないブランコ、シートで囲われたベンチやばね乗り遊具、鉄棒も滑り台も、何もかもが埋もれながら、終わりの季節を静かに受け入れていた。
街灯のランプの周りでささめ雪が明かされて、小さな粒子がたおやかに降りてくるのが見えた。それは海中に限りなく漂う、微生物のようだった。そうしたらここは、海の底か何処かだろうか、と夢想した。
不意に、両手を広げて、空を仰いだ。
何の思惑もない。
この顔に点々と雪が降りては、だらしないぬるさを帯びて、すぐに融けていった。
やがて川沿いの道に出た。河川敷の側に続々植えられた木が影一色になって、絡み合ったむき出しの枝のすべてを空へ突き刺していた。その奥に、向こう岸の町並み、何かの信号のような、低く薄いランプの羅列が見えた。
通りへ出る少し手前で、木々と並んで、立て看板の骨組みが一つ朽ちかけて立っているのに気づいた。背丈ほどの高さで、てっぺんに張り付け用の四角い枠が組まれていた。
気付いたときには、
勢いをつけて駆けだし、
その枠に向かって思い切り頭から飛び込んでいた。どうしても、そのとき、それを抜けたらここから出られるのではないかと、思わずにいられなかった。
頭と肩は、枠を抜けた。しかし、腹から下は重みで垂れて看板の柱へ激突し、嫌な破砕音と共に、それをからだごとなぎ倒した。地面へ打ち付けた視界が暗赤色に凍り付き、鼻と膝に深い痛みがにじんだ。人の気配は、イヤフォンから流れるダンスチューンの中にしかなかった。
(※この文章の内容は、フィクションです。趣旨については「はじめに」をご覧ください。)
仮題:粉雪と孤独
分類:描写文
作成開始日:二〇一四年一月十二日
作成終了日:二〇一四年一月十三日
制作時間:二時間三十分
文字数:千八十三
雪かきの後
OLYMPUS XZ-1 + Adobe Photoshop Lightroom5
KKST-0028
五歳の冬のある荒れた日のことを、グレインは今も時に鮮烈に思い出すことがあった。
その日、村へ続くなだからな白い丘には猛烈な風が叩きつけ、ごおごおと唸りながら、彼と母の暮らす小屋の板塞ぎの窓や、石壁の角を甲高く掻いて震わせた。彼は、粉雪が吹き込む隙間に棒を詰めた外戸の前へ台を置いて上ると、目一杯背伸びして、のぞき穴のふたを開け、向こうをしかと見つめた。
本当に神がいるのだと、彼ははじめて感じた。そしてそれが、目の前にあるとも。
丘向こうの空は、色を失って一面に光り、その上で太陽が融けて、輝く穴と化していた。そこから無数の流星が放たれては、一瞬に貫いて、果てしなく飛び去っていった。
彼は、右の瞳をえぐり取るような冷気と共に、誰も何も抗えない聖のちからが、母子と村のすべてを無くして、誰も彼も思いもしない、やりなおしの世界へ変えようとする甚大な意志を感じた。
興味とおそれがまだらになって膨れ上がり、彼ひとりではうまく片付けられなかった。痛みにたまらず顔をそむけては、どうしてもまた、奇跡を覗き込んでしまう。その場から離れられないことの不安が、手足の端へ鈍く取り憑いているのが分かった。
幼いグレインはこのとき、不意にモルデーとこの光景を分かち合いたい、そうなって欲しいと思った。しかしすぐに、母からその男がしばらく来ない、とひと月前唐突に告げられたことを思い出した。
(モルデーはこない)
空は時が狂ったように回り巡り、まれに白布が裂け、光りの剣が大地を斬った。
(モルデーはこない)
清すぎる青の大気がきらめいて、裁きの風が丘野の肌をなぎ払い、存在すべてを白い無がさらった。
(モルデー……)
風はそして、惑わすように何もかも戻して見せたりもした。
(モルデーはこない)
——体を壊すからこちらへ来なさい、と母の声がした。からだから未知の力がさっと逃げていったので、思わず彼は踏み台を飛び降りて母に抱きついた。
「一夜過ぎたら、静かになるのよ」彼女は溶岩炉のそばに椅子を置いて、芋を煮込みながら編み物をしていた。「それまでお待ちなさい」
優しく頭を撫でてもらいながら、グレインは母へきいた。
「モルデーがこないのはどうして?」
「モルデーさんは、お仕事をしなくてはいけないからね……」
「いまさっき、モルデーをみた」
彼は言ってから、母のことを見上げた。彼女は少し首を傾げてから、外戸へ顔を向けた。
「お外に?」
「おそとに。おそとのとおくに」
「そう、」
返したきり、母は黙って、炉の赤い熱へぼんやり視線を落とした。
「おうちにくるんじゃないかな?」何かよい言葉を引き出そうと、彼はくいさがった。「まいにち、いつもいつもくるんだから。いまもくるんだよ。おかあさんとモルデーはこいびとでしょう? おしごとはよして、くるってことだよ。ないしょのはなしをしに……」
「来られないのよ」
母は、淡い表情を浮かべたまま、グレインの両頬をそっとなぞって、静かに言い聞かせた。その瞳の底に、炉のかげろうが見えた。
「でも、近くまで来たのね」
モルデーの死罪のことを知ったのは、それから十年も後のことだった。
(※この文章の内容は、フィクションです。趣旨については「はじめに」をご覧ください。)
仮題:地吹雪とかげろう
分類:気持ち
作成開始日:二〇一四年一月三日
作成終了日:二〇一四年一月四日
制作時間:三時間三十分
文字数:千二百七十
KKST-0027
(一)
そこはかとなくイケた顔を映しに水面(みなも)をのぞくと、サメの巨頭が噴き出した。ので俺は悲鳴をぶちまけ卒倒した。
「さっさっ、サメーッ!!」
黄ばんだ牙をむき出した顎が欄干を折り割り、俺の足先三寸にかぶりついた。四肢から脳へと八つ裂きの恐怖がなだれ込む。はしる戦慄。
(二)
「ぴぎゃーッ!! ぴぎゃーッ!!」
処理前の豚みてえに錯乱した俺は、痙攣する意識と笑い狂った足腰で無我夢中に這い逃げた。それを弄ぶようにサメは荒ぶる頭部を振り乱し、木道ごと砕き散らしながら俺へ迫った。岸へ出て、ぬかるみに滑り、林のくぼみへ転げ落ちたこの身目がけて、悪夢舞う。
(三)
絶望、絶命一切を覚悟した俺は、してから、尻そばで野ざらしのアナログテレビ本体を目にし、とっさに引っ掴んで、躍りかかったサメの喉奥向けて振り放った。巨体は夢なくそのまま突っ込んできたが、口先が斜めにぶれ、俺は顎下に潰されるにとどまる。
渾身の思いで俺は叫んだ。
「地デジ化ッ!!」
(四)
全身に勝機が駆け巡った。その勢いで腹の下から飛び出した俺は、
「アナログ放送はッ!!」山積みになっていた不法投棄のブラウン管テレビを、
「終了しましたあああッ!!」ひたすら持ち上げてはサメに叩きつけ続けた。
駆けつけた相棒が、しばし様子を見た後言った。
「不細工っすねー」
(※この文章の内容は、フィクションです。趣旨については「はじめに」をご覧ください。)
仮題:いけめん
分類:スリル
作成開始日:二〇一三年十二月三十一日
作成終了日:二〇一三年十二月三十一日
制作時間:二時間三十分
文字数:五百七十四
虫と歌/25時のバカンス(市川春子)
いずれも漫画の短編作品集。独創的できれいな物語世界、ユーモア、残酷さと儚さを織り交ぜた目覚ましい展開から余韻まで、素晴らしいとしか言いようがない。好みは分かれるかも知れない。
それぞれの収録作で一つ挙げるとすれば「日下兄妹」(「虫と歌」)、「25時のバカンス」(「25時のバカンス」)か。特に後者のラストシーンは完璧だと思う。
漫画に関しては、こうした短編集や読み切りもの、一話完結ものを読むのが自分のはやり。続き物は途中で投げ出す癖があるので手が出しにくい。
僕について(2013.12) ほか
- 【創作】昨夏から短編小説の構想を練り、実際序盤を執筆していたが、納得いく出来にならず秋に放棄した。アイデアを解体して再度構想を試行錯誤している最中。しばらく離れていた書き捨ての作業に戻るべきか考えはじめた。
- 【体調】良くない。
年内のうちに、どうしてもロックの死について書いておきたかった。7月22日、もう五ヶ月以上前のことである。当時、何とかtamagomeのトップページを更新して、数日間だけそれを知らせた。
多分、このブログを読まれている中には、昔思春期の僕がこの犬の写真をやたらに撮って、サイトのいちコーナーにしていたことを知っている方がおられるのではないかと思う。彼の死は僕の、だけではなく、サイトの喪失なのだ。本当はそのときブログにも書くべきだった。遅きに過ぎるが、改めて彼に感謝し、彼を偲びたい。
安らかなれ。多少寂しいけれど、こちらはなんとかしているよ。