tamagome logs

たまごにことだま、こめてめばえる。

KKST-0017

       (一)

 月面九条通(くじょうどおり)を甲と乙が、簡易宇宙服でタンブラー片手に並んで歩いていた。甲、軽やかに、「なんか右腕がうずくから/殴るね」と切り出す。乙、笑顔のまま訊き返す。

「え?」

 

       (二)

 間髪なく、一歩引いて軽く屈んだ甲が、乙の腹部ど真ん中に右拳を打ち込んだ。ぼご、と衝撃でくの字に折れる乙の全身。笑顔から噴き出すなにか。ほっぽり飛ぶタンブラー。

 

       (三)

 そのまま後方へ水平に吹っ飛んでいく乙。背中で電柱をなぎ倒し、ブロック塀をぶち破る中で、なにもかも悟ったように、そっとまぶたを閉じ、おだやかに心の中で呟いた。

(いいんだ……/いいんだ……)

 

       (四) 

(分かるよ……/それがお前のやさしさ……)

 黒い空の下、一斗缶の山を突き抜け、一軒家、自動車、雑居ビルと次々貫通して遠ざかっていく乙を見届けながら、甲は胸に右手を当て、乙のことを想った。

(でもな……/それが社会をダメにするんだ)

 

(※この文章の内容は、フィクションです。趣旨については「はじめに」をご覧ください。)

 仮題:はやく目を覚ませ
 分類:意外性
 作成開始日:二〇一三年三月十日
 作成終了日:二〇一三年三月十日
 制作時間:一時間半くらい
 文字数:四百二十七

(投稿二時間後追記:こんな短文なのにかなり致命的な誤記があったため、修正しました。ショック……)